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乱流の結晶学 "Crystallography of  Turbulent Flow" 1998-1999 





Op.2 *
1998  73 cm×51.5cm
Op1 *
1998   73 cm×51.5cm











Op.10 *
1998   73 cm×51.5cm


Variation 1 *
1998   73 cm×51.5cm










  
  Op.8
  1998   194cm×392cm











Op.9*
1998   129.3cm×96.5cm

Op.5
1998   162cm×130.5cm











Op.6
1998   130.5cm×162cm

Op.7*
1998   117cm×117cm











Variation 11 *
1999   73 cm×51.5cm


Variation 12 *
1999   73 cm×51.5cm

個人蔵







 制作素材

基底材   綿カンヴァスに和紙 アクリル下地    
    * パネルに紙 アクリル下地 
絵の具   オリジナル絵の具(天然樹脂、油、蜜蝋)、油彩







結晶と乱流を繋げてみる。








図版2
左 フローフォーム    右 フローフォーム内の水の動き

マーク・リグナー著 ジョン・ウィルクス監修 
「自然に奉仕する芸術 フローフォーム物語」




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結晶と乱流を繋げてみる。
― 物質は、熱いほど知的らしい ―
  

 時々、対極を結びつけるということを面白半分に (半分は真面目だから性質が悪いのかもしれないが) することがある。この時は、結晶と乱流というどうやっても結びつきそうもないものを結びつけてみた。結晶というとだいたいあの水晶のような形を思い浮かべる。結晶をどのように描くかを考えていた時、面白い図を見つけた。ジョージ・アダムスという科学者が、射影幾何学を使って描いたものだった。この人、流体力学者のテオドール・シュベンクと共同研究していた人らしい。 シュベンクについては、UZUME をご参照ください。 このシュベンクの研究所へイギリスから学びに来ていた人物が、フローフォームの生みの親、ジョン・ウィルクスだったのである。結晶を射影幾何学で描いた図(図版1)とフローフォーム及びその内部に水が流れた時の連続した動きを下に掲載しておく。フローフォームは、空豆を左右対称に開いたような器に水を上から流し入れてレムニスカート(無限大の記号)のような形の流れを形成する装置である。なんとなくローレンツアトラクターを想像させる形だが、水を浄化する働きがあると言われている。上から段々に並べられた器の形状は、脊椎骨を思わせる。

図版1  射影幾何学を用いて描かれた結晶


 幼稚園の遊び場に男の子は白、女の子は赤の帽子をかぶった子供達が遊んでいるとしよう。別に色は、どちらでもよいのだが、当然ながら赤・白帽は、入り乱れてピンクのブラウン運動のような状態である。そこにマーチが小さな音で流れ始めると、ちょっと様相が変わってくる。そのマーチの音は、段々大きくなって、それが頂点に達した時、赤帽の列と白帽の列が出来上がって、二列は、互いに手を取り合ってグルグルと音楽に合わせて行進し始める。やがて赤・白ダンダラの綺麗な模様を描きだす。ベルーソフ・ザポチンスキー反応(図版3)と呼ばれる化学反応を譬えるとこんな感じになる。これは「散逸構造」と呼ばれる代表的な例の一つなのである。それは、時に第二世代システムとも呼ばれる。
 散逸構造の研究でノーベル化学賞を受賞したイリア・プリゴジンは、イザベル・スタンジェールとの共著「混沌からの秩序」(みすず書房)の中でこのように述べている。平衡から遠く離れた状態では、新しいタイプの構造が自発的に生じることをわれわれは知っている。平衡から遠く離れた条件下で、無秩序あるいは熱的混沌から秩序への転移が起こることがある。物質の新しい動的状態が、出現するのである。それらはある与えられた系とその環境との相互作用を反映した状態と言える。筆者は、この新しい状態を散逸構造と呼んだ。ちょっと解説しておくと、平衡から遠く離れた状態というのは、熱やエネルギーがどんどん流れ込んでいる状態を指す。要するに火にかけられたヤカンの中を思い浮かべてもらえばよい。平衡状態とは、火を止めて室温にまで冷めたヤカンの内部と思えばよいだろう。散逸とは、そのエネルギーを消費しながらという意味である。そうしながらある新しい構造が、作りだされるのである。あたかもお互いにコミュニケーションをとり合って協働するかのような振る舞いをする。統一性のあるリズミカルな挙動を示す化学時計のような反応が現れたり(つまり赤白帽のダンダラ模様)不均一な構造や非平衡な結晶を生ずるような自己組織化の過程もみられたりするのである。 この非平衡な結晶という言葉に魅せられた。比較的馴染みのある散逸構造の例をあげるなら、さっきの火にかけられたヤカンである。この場合、水かさは浅くなければならない。ヤカンの下の層の水は、徐々に暖めらるが、上は、冷たく重いので下に引張られる。その結果、渦と対流が生じて、一時的に乱れるが、やがて蜂の巣状のベナール対流が自己組織化される。お湯の表面が、細かく細かく起伏を作っているのを見たことがおありだろうと思う。底の温度がもっと高くなるとベナール対流は、崩れて乱流に移行する。つまり、沸騰するのである。科学の世界では、熱的混沌の世界から新たな秩序が形成されることに注目が集まった時期がある。イリア・プリゴジンは、物質は熱平衡から遠ざかるほど、つまり熱くなるほど、ますます知的になると語った。自己組織化の条件については、私の作品集「乱流の結晶学」 をご参照ください。
 ジョージ・アダムスの射影幾何の文章を読んだが、なかなか刺激的だった。例えば、無限遠を想像するのは、普通の人間にとって困難なことであるという。全体としての平面は、全ての方向に無限に伸びているので、全ての側の無限を通ってそれ自身に戻ってくるような、ほとんど循環的な存在だという。右側へ向けて無限に進むと左側の無限から戻ってくる。真上に無限に進めば、真下の無限から戻ってくるという。天頂と天底は、数学的想像上の純粋空間においては、単一の点だという。かなり悩ましい表現だが、こう考えてもらえばわかりやすい。直線L から離れてその上にある一点 o をとる(図版4上)。そのoを通って直線 L に交わる点を作る直線 a をひく。そして交わる角度を徐々に変えていくと(直線 b、c ‥‥)と直線 L 上に次々に点を結んでいくことができる。その直線がL と平行になった時、つまり e のような状態になる時がくる。それより角度が上向いた次の瞬間直線 f のように今までとは、逆の方向に点が形成され始める。左側へ無限に遠ざかっていった点は、右の無限遠から帰ってくるのである。直線 L と e とがユークリッド幾何学では、平行とするのだが,射影幾何学では、無限遠で交わると考える。この時交わる点は、二つではなく、一つだと考えるのである。そういう不可思議な空間なのである。


図版4 無限遠直線と無限遠平面 

 図版4の下は、 a、b、c という直線のかわりに平面を置き換えた時の図である。無限遠平面上には、平面 a、bなどによって直線が引かれることになる。その無限遠平面とそれと平行な平面eとが交わる所、つまり無限遠平面の縁には、円ではなく直線が存在することになる。もう一つ興味深いことがある。この空間では、部分より全体のほうが小さい。ユークリッド幾何学では、点を平行移動したものが線である。当然ながら、点という部分は、線という全体の一部である。これは線と面との関係でも同様である。しかし、射影空間では、線の重なった箇所が点である。この時、線は部分であり点は、全体となる。部分より全体の方が小さいのである。不思議だ。ジョージ・アダムスは、この射影幾何学の空間をエーテル空間と呼んでいた。エーテルにつては、エンテレケイアの中で少し触れている。この言葉は、錬金術などの手垢にまみれてしまっている。しかし、うっちゃっておくにはあまりに面白い空間ではなかろうか?通常の物質空間に対して、相補的な世界であるからだ。このような空間の中では、事象が別個なあり方をするのかもしれない。 このように奇妙な空間に結晶を描くことが出来る。射影幾何学を使って描くのであるが、一般には馴染みがない。が、透視図を描く時に使われている歴史がある。この結晶の図に非平衡な自己組織化する結晶を重ねてみるのである。ウィルクスが作ったフローフォーム内の水の流れや、ベルーソフ・ザポチンスキー反応のような非線形的な形がこの空間には相応しいのではなかろうか。想像するだけでも魅力的だ。このような、あらゆるものを巻き込んで自己組織化できる空間があればいいと思っている。私の意識は、赤白ダンダラ模様なのである。
                          
2009年 4月





図版3 ベルーソフ・ザポチンスキー反応 

撮影 植田 信隆

         


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