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不穏な原子核ベクトルモデルたち 

"Turbulent  Nuclear Vector Models"  2002-2003 
                        
 





 Op. 12     2002-2003    194cm×392cm
  
 











   Op. 11     2002 -2003      162cm×130.5cm 












 Op. 6 * 
  2002 -2003    73cm×51.5cm 

 Small works Op.  1 *
 2003         41cm×32cm 

 個人蔵













Op.15*
 2003        73cm×51.5cm 

Op. 8 * 
 2002     129.3cm×96.5cm












Op. 3 *
 2002         51.5cm×73cm










 
   

Op. 14 *
  2003         129.3cm×96.5cm

   
Op. 5 *
 2002-2003        73cm×51.5cm 










 制作素材

基底材   綿カンヴァスに和紙 アクリル下地    
    * パネルに紙 アクリル下地 
絵の具   オリジナル絵の具(天然樹脂、油、蜜蝋)、油彩








松澤宥/ポスト・ヒロシマの芸術へのオマージュ





図版1 バックミンスター・フラーによる原子核ベクトルモデル

左上からマジックナンバー(魔法数)2、8、20、28、50,82及び126に対応する。    
この図版は、フラーのオリジナルのドローイングをもとにC.G.を用いて描いたものです。  





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 松澤宥/ポスト・ヒロシマの芸術へのオマージュ
 この展覧会は、ヒロシマ・ナガサキへの原爆投下
 という事件を自らの制作活動のの出発点とした
 松澤宥(まつざわ ゆたか)の真摯な芸術活動へ
 のオマージュ(捧げ物)である。
  

 昨年(2002年)の四月四日、私は、松澤宥(まつざわ ゆたか)に出会った。 コンセプチュアルアートの巨人として現代美術の世界では知らぬものはない作家である。「人類よ、消滅しよう」 そのラディカルな言葉と厳格なポートレートとはうらはらに、その人柄は温和で語り口は謙虚だった。その人となりに魅せられた。松澤先生との出会いとその作品については、円転螺廻 ― 松澤宥の思い出ににまとめて述べている。その後、松澤の作品の底流には、ヒロシマやナガサキに投下された原爆が黒い影を落としていることを知った。評論家の石川翠(いしかわ みどり)氏は、松澤の様々な営みには深い悲しみと喪失感が潜んでいると書いている(「スピリチュアリズム・松澤宥 1954-1997」 川口現代美術館カタログ)。原爆投下の日の朝、彼は、物質文明の、人智の、科学技術の未曾有の逆理に出会う。 この人間の終焉の可能性が、個や国家を超えた「ひとつの世界」を実現することを松澤に強いた。この危機を伝道し、乗り越えるための芸術を創造すること、そのような強い衝動が彼の中で生まれ、育ったというのである。
 日本にもこのような誠実な作家がまだいたのか。この驚きは、ゆっくりと畏敬へと変化していったのであった。(私と 松澤先生、能勢伊勢雄氏とのヒロシマをテーマにした作品については、「消滅するヒロシマに捧げる九つの詩」を御覧ください。)
 その年(2002年)の秋頃からか、一つのビジョンが私に付きまとった。バックミンスター・フラーの原子核ベクトルモデルが乱れ、揺れ動く。今年(2003年)になってアメリカのイラク攻撃や北朝鮮の核問題が俄に注目を集めるようになった時、このヴィジョンの意味を理解した。そして、この不穏なイメージは、ただの夢で終わってくれれば良いのだがという祈るような思いに変わったのである。
 虚空は、零点エネルギーを持つ。真空でもエネルギーは存在する。その理由として、空間は構造を持つからだと説明する人達がいる。 かつてバックミンスター・フラーのアシスタントをしていたエイミー・エドモンドソンは、そのことをこう説明している。普通、人は空間を空っぽの無だと考えているために、それがある特性をを持っていると考えたりするのは馬鹿げたことだと思っている。だが、空間には形があり、ある構造を持ったものの共存は許すが、それ以外は許さないような厳密な特性を持っている。壁を四つ持った空間を作るためにはどうしても、その壁は三角形でなければならないと言うのである。空間は、形を持ち、エネルギーを持つ。それは、構造を持つエネルギーグリッド(言うまでもないと思うが、このグリッドは立法格子ではない)であるかもしれない。フラーの考えている空間につぃては、反転する内界面で少し触れている。
 1975年、フラーは原子内の電子、陽子、中性子の関係を正四面体、正八面体、正二十面体の組み合わせとしてモデル化している。彼の発見した原子核ベクトルモデル(図版1)は、これら電子、陽子、中性子の関係が形作る空間構造の動的モデルと言える。原子核の中の陽子や中性子はある特別な数で安定して、他の原子と反応しに く く なる。それらは魔法数と呼ばれ、陽子の数であらわされる(2,8,20,28,50,82,126)。これら7つの魔法数に対応する原子核ベクトルモデルをフラーは発見するのである。各モデルの総ベクトル数は、原子核の持つ陽子、中性子及び電子の数の総和となる。これが私につきまとったイメージの原型と言うべき存在なのである。不穏なイメージの幽霊たち‥‥核兵器が爆発する時、瞬間的に凶器のエネルギーは解放され、虚無的にエントロピーは増大していく‥‥
  フラーの共同研究者、梶川泰司(かじかわ やすし)はシナジェティクトポロジーを研究した。彼は、正十二面体から正四面体へと折り畳まれる構造変換モデル(梶川氏自身はこの言葉を使っていない)を発見した。詳しくは、バックミンスター・フラー著、梶川訳の「コズモグラフィー・シナジェティクス原論」 の巻末資料をごらんいただきたい。一つの正十二面体は,回転しながら五重の正四面体にトポロジックに変化させることができる。折り畳み方は四種類あり、折り畳まれた正四面体の頂点は,それぞれの畳み方ですべて異なり、対象性の破れが四種類あることが梶川によって数学的に証明されている。この空間の構造変換を時空のエネルギーグリッドのそれとして類推するなら、宇宙における時空の相転移を説明できるかもしれない。そう、私が言うと、梶川さんは、「仮説としてはありうるよね。」 と、静かに語った。梶川さんとは、尾道市立美術館の「龍の国・尾道 その象徴と造形」展の時に会って以来だが、その後も、フラーの翻訳で活躍している。フラーは、環境を破壊することなく地球の全ての人たちに最高の生活水準をもたらすためには科学の発展は不可欠であり、それをいかなるコンセプトのもとに用いて世界の平和を実現するかを「デザイン サイエンス」として提案し続けた人だった。
 ケプラーは、天球中に太陽系惑星が描く軌道をプラトン立体の内接、外接球の中に見出される完全な調和として感じていた。彼は、「生けるものは”死んだ”六角形の結晶から移行して、五角形に向かうことによって生じた」と述べたと言われている。古代ギリシャにおいて地・水・火・風の入れ物として、後に第五元素と呼ばれたエーテルは正十二面体としてシンボル化されてきた。ケプラーは、生命の星、地球の軌道を含む内接球をこの伝統に従って五角形の正立体である正十二面体に充てている。私達は、フラーが自然の中の最小システムと考えた正四面体から正十二面体への変換過程、つまり先ほどの梶川モデルとは逆の過程を生命へと向かうプロセスとして象徴化できるのかもしれない。
 松澤宥に話を戻そう。人類を隔てる仕切りを消滅させること、「一つの世界」を実現すること、松澤は、そのことを意識し続けた。それは、サイエンスを超え、思想を超え、個を超えて、ただ一つの精神的地平に向かって内破すること、そう言ったらよいだろうか。それが、松澤の観念芸術ではなかったか。そのような世界を、松澤は目指したのではないだろうか?「人類よ、消滅しよう」この言葉の意味をわたしは、このように捉えている。松澤の一貫した真摯な態度に対するオマージュ(捧げ物)として展覧会を開きたい。これが、今回の私の展覧会の主旨である。私自身もヒロシマに生を受けた者として幾許かの責任を果たしたいという思いにもかなう、そういう機会にもなりうるだろうと考えた。原子核ベクトルモデルが不気味に振動し始める、不穏な極東の核や中東の緊張を象徴するそのヴィジョンがもたらすであろう結果を回避できるように私達は努力しなければならないのである。この地球がいつまでも生命の星として存在できるようにしなければならない。正四面体がトポロジックに正十二面体に変換されるように
     

かねこ・あーとギャラリーにおける2003年の個展パンプレットに一部加筆しました。


2009年  2月
 

         


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