Entelechie 「エンテレケイア」

Non-Linear Modern 
「非線形性モダン」より







Op.7*  1996  100cm×100cm 






Op.9*   1996  117cm×117cm







Op.15*   1996  73cm×51.5cm







Op.13    1996  194cm×130.5cm







Op.12   1996  194cm×130.5cm







Op.16*   1996  73cm×51.5cm





Op.18*   1996  73cm×51.5cm 








Op.10*   1996   97cm×145cm






Small works 1*   1996  42cm×36.5cm







Op17*   1996  73cm×51.5cm


■ Production materials
制作素材

Japanese paper on cotton
* Paper on Panel  

基底材   綿カンヴァスに和紙 アクリル下地    
      *パネルに紙 アクリル下地
Original paint (made from resin,oil and beewax),Oil, Acryl
絵の具   オリジナル絵の具(天然樹脂、油、蜜蝋)、油彩



エンテレケイア ― 根源力 ―

文化の中の熱要素
  

 35の時、勤めを休職してウィーンに留学した。受け入れ先が、決まっていたわけではない。ウィーンの美大の絵画クラスをまわって教授たちに交渉して歩いた。その時、応用美術大学のアドルフ・フローナーが拾ってくれた。どこの馬の骨だか分らない人間をである。師の、その度量の広さと寛容さを思うと今も心が熱くなる。当時は、フンデルトヴァッサーや、ウィーン幻想派の作家たち、レームデン、ブラウアーらがまだ教えていたし、抽象のプラヘンスキーや表現主義的な画風のアーノルフ・ライナーたちがいて、ウィーンも元気だった。フローナーも表現主義的な作家の一人である。


アドルフ・フローナー1934-2007

 ヨーロッパを広く歩いたわけではない。ベルリンの壁が崩壊して、開いたばかりの東ヨーロッパが気になっていた。作品も色々見て歩いたが、ウィーンの20世紀美術館で見たヨーゼフ・ボイスの作品は、ヨーロッパで見た最良のものだった。焼け爛れた木製のドア、そのドアノブには、ウサギの耳と鳥の嘴(おそらくツグミ)がかけられている。その前には、V字の樋のような形の塊が床に置かれていて、その上に裸電球が一つ灯っていた。作品のコンセプチュアルな部分もさることながら、その周囲の空気が震えてみえた。その強烈な物質性がどこからやってくるのか、その感動とそれに付随した疑問がずっと頭を離れなかった。
 1996年から97年にかけて東京や大阪でルドルフ・シュタイナーの黒板絵の展覧会が、開かれたのを憶えている人もあるだろう。ボイスに最も多きな影響を与えたのが、このシュタイナーである。シュタイナー学校の創設者として有名だが、教育だけでなく、有機農法、医学、薬学、芸術、経済学、建築、神学など極めて広範囲な分野で活躍した。その魅力を一言で言えば、19世紀末、巨大な波のように押し寄せつつあった唯物主義と極端な機械論的な世界観にもとづく思想・芸術・社会システムにたいする対案を提示し、その基礎を築いていったことにある。シュタイナー学校、バイオダイナミック農法、オイリュトミー、製薬会社ヴェレダなど枚挙にいとまがない。精神科学あるいは、霊学と呼ばれるその思想は、多くの偏見と誤解をあびながらも現在でもその輝きを失っていない。そのシュタイナーが、人智学協会を創設し、会員達のために講義や一般の人々のための講演を行った。その時、解説のための図を黒板に描いていたのだが、ある会員の機転で、黒い紙を黒板に貼り、そこにシュタイナーがチョークで描いた絵を保管することにした。それが、黒板絵として残ったのである。その展覧会が開かれた頃、佐藤公俊(さとう きみとし)氏と知り合った。彼は、シュタイナーの研究者で、シュタイナーの書籍だけでなく、シュタイナーの思想に影響された医師、科学者、芸術家などの著作を訳していた。その佐藤氏が、東京の美術館で、黒板絵を前にそこに描かれた絵がどのような内容の講義の中で図解されたのかを私に熱心に説明してくれた。その説明は、長時間に及んだが、少しも退屈しなかった。それだけの内容を佐藤氏が、すでに自分のものにしていたということなのである。後に彼が、レン・メースの「シュタイナー医学原論」(平凡社)の翻訳や、ユリイカのシュタイナー特集などを手がけるようになるとは、そのころはまだ思ってもみなかった。
 佐藤氏の説明で、記憶に残っていることは多くあるのだが、一つだけ挙げるとすると、ミツバチに関する箇所だろう。シュタイナーの「宇宙言語の協和音としての人間」という講義の中では、このように述べられている。「ここで、自然の中には、頭蓋のない頭であるものが存在します。つまりそこでは、頭の内部で作用しているのと同じ力、つまりミルクを必要とし、ミルクを再び産み出すことさえする力、何故なら子供は、ミルクをまず熱エーテル的な状態に移行させ、それからそれを作り出すからですが、そういう内部で作用するのと同じ力が、外から作用しているのです。あらゆる方向に開いている頭というのは、蜂の巣です。蜂が、営んでいることは、本来、頭が内部で営んでいることと同じことですが、ただし、それは外部にあります。‥‥ それは、閉じられておらず、外から作用します。さらに蜂の巣の内部には、人間の頭の霊的活動と同じものが外なる霊の影響のもとに存在しています。」 ちょっと、これだけでは、分かりにくいのだが、人の脳は、ミツバチのように多くの情報をかき集め、自らや、社会に役立つようにそれらを編集して、電車の乗り方から哲学思想にいたるまで紡ぎ出す。それは、蜜蝋を生み、巣を形成しながら、蜜を蓄えていく事と同じである。幼い子供達は、頭から発達していくが、それは、胎児を見てもらえばわかる。赤ん坊は、ミルクで育つ。ミルクには、幼子の頭部を刺激し、身体を発育させる力がある。しかし、熱エーテルとは何?ミルクを再び生み出すとはどういうことなのだろう?まず、物質は、粗雑な状態から精妙な順に並べることができる。地・水・風、火、古代ギリシヤ以来のオーソドックスな分類だ。シュタイナーによれば、その四大には、四つのエーテルが対応する。地/生命エーテル、水/音エーテル、風/光エーテル、火/熱エーテルという具合なのだが、エーテルも古代ギリシヤ以来の、あるいはもっと古くから概念で、第五元素と呼ばれた時代もある。科学の世界では、長らく光子などを運ぶ空間中の媒体として考えられていたが、マックスウェルの電磁波の理論によって退けられることになる。電磁波の理論では、空間そのものが、エネルギーを持って振動するからである。シュタイナーは、エーテルを霊的なものが、物質界という蝋に押印する働きのようなものとして捉えていた。どちらかというと、化学反応や、生命現象の生ずる場の働きと言う方が、現在では理解しやすいかもしれないが、彼は、あくまで精神的なものの働きとして考えていたことは、お断りしておかなければならない。勿論、この場は、静的な存在ではなく、ダイナミックに運動する場である。シュタイナーによれば、体に取り入れられた鉱物質の食物は、いったん熱エーテル的な状態に移行し、それから初めて身体を可塑的に形成する働きを持つミルクになるという。物質的な火(熱)に対応する形成原理が、真のミルクであり物質のミルクとは、そのシンボルということになるだろう。だから、ミルクを再び生み出すとは、そのような働きを身体の中で再生させるという意味になる。ここで、思い出すのが「原形態」 の所で説明したエンテレケイアである。「自分を表さんとする、かくありたいという形態の衝動」、それがここにも影を落としているような気がする。こいう考え方が、古代ギリシア以来の観念論に繋がることは御留意いただきたい。ところで、成人になれば、ミルクは、もはや頭の中でそのような働きをなさなくなる。それにかわるものが大人にとっては、ハチミツなのである。
 

四エーテルの幾何学的象徴(四エーテルにそれぞれ幾何学的なシンボルを与えてみた。)

熱エーテルは、時間の発生と共に生じ、
光エーテルは、空間の発生と共に生じたとされている。
生命エーテルの幾何学的象徴については、バックミンスター・フラーの球面上の三角形の移動と張力統合体を参考にさせていただいた。

エーテルの分類と性格については、エルンスト・マルティ「四エーテル論」によっている。


クラドニ図形 音エーテルの代表的な例

 ボイスは、コンセプチュアルな作家である。パフォーマンスもよく行った。彼の作品の中では、ハチミツや、獣脂がよく登場する。それらは、内に熱を含んだ物質である。錬金術では、水銀が金属なのに液体であるのは内に熱を含むからだと考えられた。ミツバチは、太陽と関係が深い、太陽に向かう蜂のダンス、冷たい水晶の結晶のネガのような蜂の巣、その巣自体が人間の体温くらいに常時保たれているのである。ここから、頭にハチミツを塗り金箔を貼った姿でのパフォーマンスが理解できる。金は、錬金術では、太陽を意味する。ボイスは、こう言っている。「ハチミツは、疑いもなく溌剌とした物質であり、人間の思想もそれと同じように豊かな生命力を回復しなければならない、そうしなければ、思想は、知識偏重に傾き危機を迎え、例えば教育や政治の分野で人類を窒息死させかねない」と。(「ヨーゼフ・ボイスの社会彫刻」人智学出版社)。彼にとって、ハチミツや獣脂は、人間の思想、ひいては文化全体を熱要素によって活性化するという意味を持っていた。ボイスは、熱要素を引っさげ文化全体を熱的カオスに誘い、エンテレケイアのごとく形作ろうとした。その熱要素は、ボイスの彫刻となり、パフォーマンスとなった。人体の形成原理であるミルクは、誰の中にもある。その意味では、誰もが形成する力を持つ芸術家である。その形成原理を人体だけでなく社会にまで拡張した時、それが彼のいう社会彫刻となるのである。それは、シュタイナーから引き継いだ芸術による社会変革運動だったのだ。その作品から発するオーラは、ここを源としていたのである。


ヨーゼフ・ボイス Joseph Beuys
photo Kanji Wakae


2009年 5月  










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