脳の中の渦

 

img10-2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プリューム型の熱対流の法則を用い
た脳の形態のシュミレーション画像

 

人間を四つのレイヤーとして見る(フォトショップの好きな人は得意でしょ)。固体、液体、気体、熱の四つである。これは地、水、風、火のオーソドックスな分類だけれども固体人間は、まあいいとして、液体人間、空気人間、熱人間をイメージするのはなかなか難しい。しかし、バーバラ・スタフォード女史が強調するように医学における視の欲望には果てしないものがあるようで、例えばX線は固体に反応するし、MRIは水に、サーモグラフィーは熱に反応している。あとは空気に反応する画像診断装置が開発できそうだ。アーティストは、気楽だと言われそうなのでこのくらいにしておく。

神戸のデザインの大学で「形の科学」で著名な高木隆司(たかき りゅうじ)先生に渦の実験の手ほどきを受けた。もう10年くらい前になる。きっかけは、テオドール・シュベンクというドイツの流体力学者の本『カオスの自然学』(工作舎のロングセラー)を読んだからだった。高木先生も流体力学の研究をされていたことがある。この本で水というもの、流体というものに対する意識が全く変わった。

人間を水だけの要素として見る。まるで想像力のサーカスのようだが、シュベンクはやってのけている。その後、MRIの開発者の一人、中田力(なかだ つとむ)さんが書いた『脳のなかの水分子―意識が創られるとき』を読んで歓喜した。またかと思われそうなので、これ以上は感想を述べるのは差し控える。中田さんは脳の成り立ちをこのように考えている。一点から三次元に均等に拡がれば球になる。ここに分子同士の衝突のような小さな変化が積み重なってできる非線形性の要素が加わり襞が形成され始める。これが脳の皺の原因だ。非線形性というのは、ちょっとしたきっかけが大きな変化をもたらすような仕組みをさしている。人間のような恒温動物は高い中核体温を持つ。胎児の場合はそれが高く、脳が形成される場所の中核から羊水に向って熱が放射される。その熱によってその場の体液はある渦の形を形成し、維持する。原爆のきのこ雲のような形のプリューム型の熱対流が脳の中で生じる。その結構複雑な対流にそってラジアル繊維と呼ばれるグリア細胞の突起が、いわば脳の形をした籠を編み上げる。そこにニューロンが絡んで脳表に達し皮質を作り上げるという。このラジアル繊維は脳が形成されると消滅して脳の活動で生じる大量の熱を放出するダクトになるらしい。よくできている。これが脳が自己形成される中田さんの筋書である。ここから脳の渦理論が発展していくのであるという。かくして私は、シュベンクのいうように体内の形態を形成するのは流体であるという一つの手掛かりを手にいれたのである。

最後に中田さんのこの言葉で締めくくろう。「生体における機能とは形態である。」