西澤潤一・上野勛黄『人類は80年で滅亡する』 温暖化の果てにあるもの

松澤宥(まつざわ ゆたか/1922-2006)
80年問題9番より  2002年 
この作品はご家族の許可を得て掲載しています。

「80年内に人類は滅亡する。」このテーマを知ったのは科学雑誌でもなく、新聞記事でもなく、松澤宥(まつざわ ゆたか)というアーティストの作品だった。2000年に本書が出版されているから、作品にこのメッセージが使われたのは、この後からになるだろう。松澤さんは、知的でエレガントで優しい人だったけれど、パフォーマンスの写真とかを見る限り、なんと厳しそうな人なんだろうと思っていた。彼の訴える内容から考えれば、当然のことだったかもしれない。

概念芸術の創始者とか巨匠とか言われる人だ。何故か、松澤さんの晩年にお付き合いさせていただいた。2004年に広島市現代美術館での展覧会に一緒に参加させていただいたのは、とても楽しい思い出になっいる。概念芸術というのは物質の痕跡をできるだけなくして言語を中心としたコンセプトとパフォーマンスを芸術の手段とするアートを指している。メッセージアートにも通じるものがあるが、1960年代から70年代にかけて世界的な展開を見せた芸術運動だった。

本書『人類は80年で滅亡する』は CO² 増加による地球温暖化に警鐘を鳴らした著書の一つである。人類滅亡、つまり、「終焉の開始」を告げる警告の書として異彩を放っていた。まず、現状を知っていただくために気象庁が発表している年平均気温の変化と水位の変化を見ていただきたい。

世界の平均地上気温の偏差(1850-2012年)気象庁

世界の平均気温の偏差は、西暦の第一位が1の年から30年間の平均気温、例えば1961年から1990年までの平均を基準にその年の平均気温がそれからどれくらいズレているかの偏差をグラフにしたものである。これは、10年ごとに更新される。温暖化を背景に右肩上がりになっているのだが、過去30年に比して異常でも次の30年では平年並みになってしまうということを頭に置いておいてほしい。2018年では、1981年から2010年までの30年平均値からの偏差が+0.73℃で1891年の計測以来過去4番目に高い数値になっている。

世界平均海面水位 1900~1905年平均を基準にした世界平均海面水位の長期変化 気象庁

海面の水位も軒並み高くなっていることが分かる。氷河や極地の棚氷がどんどん縮限して太平洋の小さな島が無くなりそうになったりしているのも頷けるのではないだろうか。ベネチアの冠水は、地下水のくみ上げによる地盤沈下によるだけのものではないだろう。気温にしても海面水位にしても大きく変動し始めていることは間違いない。この原因を科学者たちがどう見たかということが一つの大きなポイントになる。

筆者たち――ノーベル物理学賞候補者とエコシステムのスペシャリスト

筆者たちの内、西澤潤一氏は1926年生まれ。東北大学工学部卒業後、同大学で教鞭を執られた。この間に東北大学電気通信研究所所長、同大学総長を務め、同大学の名誉教授であられる。1968年より半導体振興会半導体研究所所長を務め韓国などの半導体産業に大きな影響を与えた。日本学士員会員、ロシア・ポーランド各科学アカデミー、韓国科学技術アカデミー外国人会員など世界各国で認められた科学者だった。日本学士院賞、Jack.A.Morton賞、文化勲章、IEEE(米国電気電子学会) Edison Medalなど多数の受賞歴を持つ人だ。2002年にはIEEEがJun-ichi Nishizawa Medalを創設している。主な著書に『技術大国・日本』『未来を読む』『背筋を伸ばせ日本人』のほか多数の専門書を執筆。ノーベル物理学賞の候補者といわれたが惜しくも受賞を逸した。2018年に亡くなっている。

西澤潤一・上野勛黄
『人類は80年で滅亡する』2000年刊

上野勛黄(うえの いさお)氏は、1938年生まれ、明治大学大学院博士課程を修了後、ドイツのブラウンシュバイク工科大学、テキサス工科大学大学院などで学ばれ、欧米の大学の教授や研究所の研究員を歴任された。東京大学大学院で教鞭を執られた後、衆議院特別職政策担当公務員、エコシステム研究会会長、ウェイスト・リリース研究会幹事などで地球環境の問題に取り組んでこられたようだ。アレキサンダー・フンボルト・フェロー。20世紀業績賞、国際平和賞を受賞されている。主な著書に『エコシステム農法の奇跡』『水の再発見』『海洋深層水パワー』などの他、専門論文が多数ある。

 


まず、地球温暖化のプロセスの中でどのように二酸化炭素が働いているのか。そして、それはどのように地球の中で循環しているのかをみていきたい。


 

地球温暖化物質の二酸化炭素

太陽からの放射エネルギーは、大半が地球の大気や地表で反射されて宇宙空間に放出されるけれど一部が大気圏内の何種類かの気体に吸収されて地球にとどまる。それらの気体のことを温室ガスないし、地球温暖化物質というわけです。代表的な温室ガスは水蒸気と二酸化炭素だが、ほかにメタン、亜酸化窒素、特定フロンCFC-12などもある。今、問題なのは温暖化係数が最も高い二酸化炭素だが、炭素Cと酸素Oの接合部に太陽の放射エネルギーが入射すると、そこが励起されアコーディオンのように振動する。それが静止状態に戻るときに赤外線が放出され、温暖化のエネルギー源の一つとなる。

しかし、このような温室ガスが存在するために地球の大気は適正に保たれてきた。今、それが過剰になりつつあるのだ。地球より太陽に近い金星は二酸化炭素を中心とした分厚い大気があり、その濃度は地球より高く地表温度は400℃となっていて、地球より太陽から遠い火星では、大気はほとんど二酸化炭素だがその濃度が薄く赤道付近の平均気温は-50℃と極寒となっている。地球は絶妙なバランスの中にあるのだが、それは見えない循環に守られている。

地球を循環する二酸化炭素

数値については各研究所でかなり差があるが、二酸化炭素の貯蔵量は、大気圏に約7400憶トン、生物圏には推定で生体として5500憶トン、枯死体として1兆2000憶トンで計1兆7500憶トン余りとなっている。これに比較して海洋圏は大気圏の270倍の質量と1100倍の熱量を持ち、二酸化炭素の貯蔵量は大気圏の47倍、34兆9300憶トンの桁違いの貯蔵量を持つといわれる。大気圏と海洋圏とが混ざり合うのは海面から150メートルまでの表層で、この海洋混合層で二酸化炭素などが吸収され地球大気は浄化されるが、逆に水温が1℃上がると海洋から二酸化炭素100憶トンが大気圏に放出される。それが気温を上昇させ、また水温を上昇させるという悪循環となる。海洋は二酸化炭素の吸収に大きな影響力を持っていた。

1.生物ポンプ――植物性プランクトン

様々な種類の珪藻 光学顕微鏡写真 外・内殻は珪酸で出来ている。

本来弱アリカリ性の海洋には二酸化炭素が溶けていく。その溶け込んだ二酸化炭素から光合成によって有機物を作っている植物性プランクトンは二酸化炭素の海洋への取り込みを加速させる生物ポンプの役割を担っている。

代表的な植物性プランクトンは珪藻と円石藻であるが、珪藻は平均10~20ミクロンほどで円石藻の5倍くらいの大きさがあり、有機物の生産量も多い。珪藻を食べて育った動物性プランクトンや魚の糞の量は極めて多く、マリンスノーと呼ばれる降下物には炭素が多量に含まれる。

これに対して円石藻は5ミクロンと小さく、その殻が炭酸カルシウムで出来ているため、周囲の海水は酸性に傾く。弱アルカリ性の海水に溶けているはずの酸性の二酸化炭素は、大気に戻されることになる。本来二酸化炭素を吸収する作用を持つ「アルカリ・ポンプ」は、珪藻の「開花」と呼ばれるような繁殖に適するような栄養状態の良い海域で極めて活発となる。珪藻が繁茂するような海域は、深層水が湧昇するような栄養分に富む海洋か、大量の栄養分が表層に補給されるような海域である。北西太平洋は冬に深層水が太陽光の届く表層に涌昇する。冬は表層の水が冷やされ深層水と混ざりやすくなるためである。そのような海域で二酸化炭素は吸収されていくのである。

2.深層海水の沈み込みと海洋ベルトコンベアー

海洋のベルトコンベアー 本書より

グリーンランド西方の北極圏であるラブラドル海周辺では、海水が冷やされ密度が高くなり、氷が生じる時に塩分が放出されて海水が重くなり、沈み込む。この沈み込みは、アマゾン川100本分の海水量を幅100キロメートル、秒速10cmで深海へ送り込み、深層流を作る。それは地球の自転の影響で西に向かい、北米、南米大陸の東岸に沿って南下して南極海の深層流と合流した後二つに分かれて、インド洋と北太平洋で浮上してより暖められ表層で二酸化炭素を十分に吸収しながら暖流となって再びグリーンランド沖へと流れてゆく。沈み込みから浮上までの期間は約2000年といわれ、その間に二酸化炭素は海洋深くに引き込まれる。浮上時にはマリンスノーとして降下したリンや窒素成分の豊富な栄養素を運び上げて珪藻などの植物性プランクトンを繁殖させるのである。海洋ベルトコンベアーは、温度制御にとって極めて有効なシステムとなっていた。それは、奇跡の地球ラジエーターと呼ぶべきものなのである。

 


ここで、ほとんど知られていないのではないかと思われる二酸化炭素の有毒性が紹介され、温暖化が加速するとどのような地球気候変動のシナリオが想定されているかが述べられている。何故、温暖化がそれほど深刻な問題なのかが理解できる。


 

二酸化炭素中毒症

二酸化炭素で中毒症状が現れることはあまり知られていない。二酸化炭素は大気中に通常0.03%含まれているが、火山性ガスの発生や密閉された倉庫でのドライアイスの気化、穀物貯蔵庫などでの球根、大豆、木材などの呼吸・発酵による酸素欠乏と二酸化炭素の増加などにより中毒症状を引き起こすことが知られている。火山性ガスによる中毒症状の例としては八甲田山での訓練中に自衛隊員の死亡事故が起きていて、それが二酸化炭素によるものと推測されている。大気中の割合いが0.5%以上になると労働衛生上の許容範囲を超える。文献によって幅はあるが2%~3%を超えると視力障害、耳鳴り、チアノーゼ、呼吸障害が生じ、6%を超えると意識レベルが低下し10%で意識喪失が起きる。これらの値は、短期間に高濃度の二酸化炭素に曝された場合であって、後遺症が出ない二酸化炭素の「脱出限界濃度」は5%で、それも30分以内とされている。高濃度で長期にわたって常時曝されると空気中の二酸化炭素が3%を超えるだけで人間を含む哺乳類は絶滅すると筆者らは訴えている。つまり、現在の100倍の二酸化炭素量である。そうなるまでに最短で150年しかかからないだろうという。その他、これから起こるかもしれないカタストロフィーや進行中のリスクをご紹介する。

西澤潤一・上野勛黄
『「悪魔のサイクル」へ挑む』2005年刊
『人類は80年で滅亡する』の続編

その他、地球気候変動によるリスク

1.海洋ベルトコンベアーの停滞と寒冷化カタストロフィー

急激な温暖化は、各地の氷河を融かし、北大西洋の塩分濃度を薄め、海洋ベルトコンベアーを働かなくさせるのではないかと考えられている。沈み込みが21世紀の中頃には現在の三分の二程度まで浅くなり、停滞の可能性が指摘されているのだ。海洋ベルトコンベアーが停止し、冷たく重い海水が留まったままになると両極が再び広範囲に氷結しはじめ氷河期のような状態に戻ってしまう可能性がある。氷は太陽の放射エネルギーを海面に比較して4~8倍の量を反射するし、海洋の表面で下の海水の温度を逃がさない蓋の役割をする。このような過程が進むと「温暖化が引き起こす寒冷化」というリスクが生じるのである。そうなると適正な農地の位置は地球規模で変化縮小し、深刻な食糧危機が訪れる。

2.急速な温暖化と森林破壊

自然の生態系のリズムからするとわずか200年の間に平均気温が2.5℃から3℃も上昇するような温度変化は考えられなかった。植物はその温度変化に応じて移動を余儀なくされるが『地球白書97-98』によれば、その必要とされる移動年間速度は赤道を中心に南北へ1.5~5.5キロメートルの速度が指摘されている。樹木が移動するには不可能な数値となっている。アマゾンでの大規模な焼き畑農法や東南アジアなどでの森林伐採とプランテーション農法が森林の荒廃に拍車をかけているが、熱帯林は熱帯地域全体で1981年からの10年間で年平均1540ヘクタール、日本の国土の約40%ほどの面積が毎年喪失している。森林が荒廃すれば樹木に固定化されていた二酸化炭素は大気中に放出されることになる。森林は二酸化炭素の吸収源だけでなく今や放出源にもなりつつある。

3.温室効果ガスと気候変化

海洋は大気の約1000倍の熱容量を持ち、陸上より遅れてゆっくりと温度変化してゆく。比熱の最も大きな水は熱的な慣性を持ち、動き出すと止まりにくい傾向があると考えられる。温室効果ガスは一度、大気中に排出されると長期間大気中に留まる。仮に温室効果ガスを現在(2000年)の数値、炭素換算で約100憶トンにとどめることができたとしても大気中の濃度は少なくとも今後200年間は上昇し続ける。2100年には約500ppm(大気中の0.05%)に達するといわれ、数世紀にわたり気温や海面の上昇をもたらす。それに、気温が2℃上がると、海面水位は50cm上昇するといわれる。気象面では、雨の降る地域、その降雨量が極端に変わり、利水や治水の方法を変えざるを得なくなる。台風の発生が増え、異常高温、洪水、高潮、干ばつなどの異常気象、広範な森林火災、中緯度での砂漠化などが世界各地で頻発し災害が大規模化する。すでに現在、その兆候が現れている。この結果、食料の増産地域と減産地域が生じ、新たな経済格差と貧困地域の発生、それに伴う飢餓の発生と難民の増加が懸念されている。

二酸化炭素濃度変化1987-2019 気象庁
グラフは三か所の観測地点での計測結果 波があるのは、夏に光合成が盛んで二酸化炭素濃度は低く、冬は逆に高くなるからである。ppmは100万分の一のこと。420ppmは大気中の二酸化炭素濃度が0.042%を占めていることを表している。

 


二酸化炭素の増加は温暖化の原因ではなく、その結果だという説もあるのでご紹介しておく、だが、実は二酸化炭素が原因であろうとなかろうと温暖化が進めば破局のシナリオがあるのだ。


 

二酸化炭素の増加は温暖化の結果に過ぎないのか

気温変化とCO²濃度変化の関係(キーリング 1989)『CO²温暖化説は間違っている』より

槌田敦(つちだ あつし)氏は、物理学、経済学の研究者だが、二酸化炭素の増加が温暖化の元凶ではないと主張してきた人だ。その根拠にはいくつかある。その著書『CO²温暖化説は間違っている』からご紹介する。

1.ハワイのマウナロア観測所の気象学者キーリングのグループが発表した気温変化とCO²濃度の関係グラフから気温上昇の波の後、半年から一年遅れてCO²濃度が高まる波が続いている。このことから温度上昇がCO²を増加させたのであってその逆ではないと考えられる。

2.フィリピンのピナツボ火山の1991年の噴火によって成層圏に噴煙がただよって太陽光を遮ったために1992年と1993年は気温が上らなかった。そのために二酸化炭素の量も増えなかった。1992年から2年間、人間がCO²の排出をやめた訳ではない。人間の排出したCO²が消えてなくなったわけではないと考えられる。

3.温暖化が先でCO²濃度の増加が後であると考えるとエルニーニョの年は赤道付近の海面温度が上昇するので、その後にCO²濃度は上がるはずで、事実そうなっていることが確認できる。1964年や1992年のエルニーニョの年の直後ににCO²の濃度は上昇していないが、インドネシアのアグニ火山や上述のピナツボ火山の噴火によって気温の上昇が抑えられたためだと考えられる。

4.IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル/Intergovernmental Panel on Climate Change)によれば大気中のCO²の量は約7300億トン(2008年時点)であり、毎年約1200憶トンを陸と、約900憶トンを海と交換している。そうすると大気中のCO²は毎年約30%が入れ替わって大気中には70%が残ると考えられる。しかし、去年のものは70%の70%つまり49%が残り、一昨年分は70%の70%の70%で34.3%が残る。過去45年間に増加したCO² は化石燃料などの燃焼によって排出されたCO²の55.9%が大気中に「毎年留まり続けた」ためだとされているから、0.559×45年は25.2年分となる。しかし、さきほどのように計算していくと人為的に発生させた45年間のCO²が大気中に残る割合は本年分を加えても3.33年分となり、25.2年分の13%でしかない。残りは陸海からの自然増加分であるとしている。

二酸化炭素の増加は、化石燃料の莫大な消費などによる思慮があるとは思えない人為的な活動によって起こるだけではない。それを契機に、地球の多様なシステムを変調させることによっても起きているのだ。おまけに化石燃料の消費は年々増加している。

槌田敦『CO2温暖化説は間違っている』

自然増加分というのは主に海洋から発生したCO²であろうというのは槌田氏もこの著作で述べている。温度上昇の波よりもCO²濃度の波が遅れるというのは、海洋が暖められるのは大気中よりも遅れるからではなかろうかと思われるが、そのタイムラグが半年から1年であるかどうかは僕には分からない。海洋が温まると大量のCO²が解放されるというのは前に述べた通りである。これらの論拠から気温が上がっても地球は安泰だと槌田氏は述べているわけではない。

海洋ベルトコンベアーの停止による寒冷化カタストロフィーについては言及されていて、深刻な食糧難と大量の難民の発生というシナリオはある。槌田氏は、温暖化の原因を大気汚染のほうに見ていて、温暖化物質としての水蒸気や地球の水冷化システムの方を重視しているようだ。ただ、槌田説には致命的な欠点がある。二酸化炭素の有毒性についての言及がないのである。呼吸困難になる前に、仮に13%であろうとなかろうと二酸化炭素を減らすべきではないか。

 


古生物学者のピーター・ダグラス・ウォードは、その著書の中で、こう述べている。過去の大量絶滅の多くの原因は、微生物たちであった。けれども微生物たちを増殖させて空気や海を容赦なく汚染したのは高等生命であった点において、高等生命もこの共犯者あったと。今、人間がすべきことは、炭素や硫黄や窒素の循環に直接介入して高緯度地域に常に氷冠が残るように温度を保ち、モンスターたちを無力化することだと述べている。私たちは、生物圏を延命させることのできる唯一の生物だと述べる。この著書の冒頭には寒冷化の事態が何をもたらすかが書かれている。


寒冷化の思考実験

ピーター・ダグラス・ウォード
『地球生命は自滅するのか?』 珪酸塩と炭酸カルシウムのフィードバック理論が紹介されていて注目。母なるガイヤとは対照的な子殺しのメデイア(メデア)のよう地球の側面が紹介される。

「‥‥氷にわれていない赤道地域でも多くの樹木種が死に始めて、樹木やその生態学的構造に依存する複雑な食物網が破壊されていく。この食物網は密生する小枝の間に張られたどのクモの網よりもはるかに複雑なものだ。雨林でも乾燥林でも、樹木は急速に枯れて倒れる。そして、その後にはよくて草や雑草が生える程度で、その他の場所は岩がむき出しになり、そこに生きていた動植物は死に絶え、それが存在していたという化石記録さえ残る可能性はほとんどない。死をもたらす変化の過程は陸地に限られていない。陸の植物が死ぬにつれて、河川に詰まった腐った植物が海に流れ込み、養分が豊富になるので短期的には生命の大増殖が起こる。だが、酸素が使い果たされるとその大繁殖は終わり、腐敗した植物は酸素のない海底に沈み込み、大規模な富栄養化をもたらす。大量の有機物が腐ると、周囲の水に含まれる有効酸素は使いはたされてしまう。陸上の樹木の死が、いっそうの影響をもたらす。根がなくなると土壌は風や雨に運ばれ、最後は海底に落ち込む。大陸に近いところは巨大な海底の扇状地が形成されて、かつては安定していた海底の群落を覆って窒息させる。移動することのできる無脊椎動物は、それほど破壊的でない水中の地滑りならば抜け出せすことができるが、動けない動物相には助かる見込みがない。‥‥」(ピーター・ダグラス・ウォード『地球生命は自滅するのか?』長野敬・赤松真紀訳)

読んでいると気が滅入ってくるのだけれど、一度は読んでみてほしい。先に述べた微生物が大量絶滅の元凶というのは、温暖化によって赤道から極地までの温度勾配がなくなると海流や風の流れが滞り、海はやがて酸欠状態になる。そのような海域では、猛毒の硫化水素ガスを発生させる細菌が地層に痕跡を残すほど繁殖したのである。本書の最終章では温暖化の問題が取り上げられているが、彼が最も懸念しているのは海面の上昇にある。過去、二酸化炭素濃度が1000ppm、つまり大気中の0.1%を超えると概ね氷のない世界が訪れた。グリーンランドの氷が融けるに伴い海面は6メートル上昇し、南極の氷が融けると70メートル上昇する。気候学者デーヴィド・バティスティによると現在の二酸化炭素の増加量を考えると1000ppmに達するのに最短で95年、最長で300年だろうと予測されている。それから長期にわたって徐々に海洋の酸欠が起こり始めるかもしれない。

 


『人類は80年で滅亡する』に戻る。海洋や極地付近のメタンハイドレートが崩壊すると、温室効果係数で二酸化炭素の24倍というメタンの雪崩的な発生が起こる。これが最悪のシナリオである。地球は過去6憶年の間に生物の大量絶滅を6回経験している。筆者たちは、7回目の危機がもうすぐそこに来ているのだ言うのだ。


 

最悪のシナリオ――メタンハイドレートの崩壊

科学技術が発達すると不幸が起こるから、もう科学の発展は必要ないのではないかという意見もひところ盛んにあったし、今でもそう思っている人もいるだろう。原子爆弾の開発に飽き足らず毒ガス・サリン、劣化ウラン弾、キラー衛星などの開発、度重なる原発事故などなど科学に否定的になる気持ちも分からなくはない。兵器は論外としても、その使い方が悪いのである。筆者たちは「科学技術が悪いのではなく、技術が未完のうちに世にだすから弊害が起こる」のだという。バックミンスター・フラーが開発する前に考え抜けと言っていたことに通じる。確かに自動車が最初に開発された時、燃料に電気を使うものと石油を使うものの両方のタイプが開発されていた。結果としてガソリンを使用する車両が世界中で使われるようになったが、世界中の人間がガソリン車に乗ったらどうなるかということは考えられていなかった。世界規模で技術の開発を考えるということは必要なことだったのである。

本書の著者たちが最も恐れているシナリオはメタンハイドレ―トの崩壊である。それは、メタン分子CH⁴を水分子が取り囲んで固まったシャーベット状あるいはゼリー状の物質で火を付けると燃えることから「燃える氷」と呼ばれている。マリンスノーとして海底に積もった有機物は嫌気性分解して最終的にメタンとなる。海洋から大気中に放出された残りが海底でメタンハイドレートを形成するわけだ。

地球全体の大気中のメタン経年変化 気象庁

2019年のメタンの大気中濃度は約1.88ppmで、2005年ころから再び急上昇している。問題なのは、このメタンハイドレートと極地付近の永久凍土層のメタンが炭素に換算して10兆トンもあり、そこから大気中に解き放たれるメタンは温室効果係数で二酸化炭素の24倍のポテンシャルを持っていることである。そして、海底に溜まったメタンハイドレートは、大陸のプレートの移動に伴って海溝付近など窪地に溜まりやすい。おまけにそこは、プレート同士がせめぎ合う地震発生地帯と重なり易いのである。8000年前のノルウェー沖でマグマの上昇による地滑りで表出したメタンハイドレート層を暖い海流が洗ったために埋蔵量の3%にあたる3500憶トンのメタンガスが大気中に放出されたと推定されている。今もメタンの噴出跡がクレーターとして残っているという。もし、この量が再び放出されたとすると地球の平均気温はわずか10年で4℃上昇する。

世界の研究機関は、化石燃料に代わる最も有力なエネルギー資源として、このメタンハイドレートを研究中だというが、日本近海の埋蔵量が100兆立法メートルあり、それは日本の天然ガス使用量の約1600年分に相当すると言われる。問題なのは、このメタンハイドレートが温度や圧力の変化に敏感で、例えば温度1℃~2℃の変化で急速に崩壊し、ガスと水に分離するからである。有用だが危険なのである。海底の石油層は多く天然ガスやハイドレート層の下にあり、いわば、それらに蓋をされていて、掘削がその蓋に達した時に膨大なガスが一気に噴出して大爆発が度々起こっている。掘削基地であるオイル・リグの破壊が20世紀だけで40基以上にのぼるといわれる。他方、シベリアのような凍土地帯で森林が切り倒されると、凍土が融け始めそれに含まれる天然ガスやメタンハイドレートのメタンが大気中に放出されるのである。

地球誕生後、大気の80%は二酸化炭素であったが、海洋で、その約半分が炭酸カルシウムである石灰岩が膨大な量形成された時に消費され、大気圏上層の水蒸気は太陽のエネルギーによって水素と酸素に分解され他の元素と反応してメタン、一酸化炭素、水、二酸化炭素に合成された。35憶年前にシアノバクテリア(藍藻)によって光合成が始まり酸素が作られ始め、海水中のミネラルと炭酸カルシウムとを結合させストロマトライトと呼ばれるドーム状の石を形成した。やがて30億年前ころから植物の光合成によって大量の酸素が生み出される。それから今日に至るまで、地球はけっして平穏無事ではなかった。

6億年前から現在までの酸素と二酸化炭素濃度の推移
『「悪魔のサイクル」に挑む』より

主要な生物の大量絶滅は、過去6億年のあいだに6回起こっているが、原因は色々といわれる。6億~5憶年前、ゴンドワナ超大陸の分裂が始まる。新生物が大量に発生したカンブリア紀に差し掛かる前の時代である。地球創成期を除いて、人類がまだ登場していない自然の生態系の歴史の中で二酸化炭素が大気組成中最も高かったのはこの時期で、現在の700倍の26%、海面は現在より200メートルも高かった。5憶4000年前、旧来の生物はほぼ絶滅した。

 

今後の気温変動と二酸化炭素濃度の行方

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告では2100年に大気中の二酸化炭素濃度は0.07%になると予測しているが、これには海洋圏からの増加分が含まれていない。危険要素を列挙しておく。

1.海洋植物性プランクトンが珪藻から円石藻主体になると気温は、2100年には現在より2.8℃上昇して二酸化炭素濃度は0.085%となり、現在のほぼ2倍となる。

2.メタンハイドレートの崩壊が8000年前と同じ規模起きたとすると、10年で気温を4℃押し上げ二酸化炭素濃度を160ppm上昇させる。

3.海洋圏の氷の融解は気温を20年で2℃上昇させる。二酸化炭素の排出量が今日のペースで続き温暖化が停止しなければ21世紀の半ばには深層海流の流量は現在の三分の二に減少し、沈み込みの深さも半分になる。22世紀になって二酸化炭素濃度が0.14%まで上昇すると深層海流は停止する可能性があるが、それが、超温暖化をもたらすか逆に寒冷化をもたらすかは神のみぞ知る。

地球号という乗り物の他に人類の乗り物はない

グレタ・トゥーンベリ スウエーデンの環境活動家 気候変動学校ストライキなどの活動で知られている。

さて、化石燃料の消費によって生じる二酸化炭素などの温暖化物質の増加だけでも問題なのだが、事はそう簡単ではないということが御理解いただけたのではなかろうか。温暖化の問題は地球の深層海流の循環や海洋の植物性プランクトンの活動、同じく地中の微生物による活動などと密接にかかわっている問題である。温暖化が進行すれば、二酸化炭素の量は増え続ける。その量が3%を超えるようなことがあれば、7回目の生物大量絶滅に発展する可能性がある。メタンはウシや羊といった反芻動物たちのゲップからも発生するから、それらの大量の家畜たちの存在も無視出来なくなるだろう。そして、最悪メタンハイドレートが大量に崩壊するとすれば、21世紀末を基準にその数十年前後で二酸化炭素の大気中の濃度が3%を超える日がやってくる。それが、本書のタイトルの由来になっているようだ。その時、人類は姿を消す。

グレタ・トゥーンベリというスウェーデンの若い女性がこの温暖化問題に抗議して話題になっている。主訴は自分たちの未来を保証してほしいということにつきるだろう。現在のツケは次世代の子供たちに確実に回ってくる。そのため彼女は15歳の時に温暖化対策を取らない大人たちに抗議するためにスウェーデン議会の前に座り込む「学校ストライキ」を始めた。世界中の若者たちの賛同を得て、ストライキは各地に広がっていったようだ。地球号という乗り物の他に人類の乗り物はない。まず、早急に我々がすべきことは温暖化対策に真剣に取り組まない政治家は落選させることだ。一国の利害に執着している場合ではないのである。

二酸化炭素の排出量の推移と予測 『人類は80年で滅亡する』より

二酸化炭素やメタンガスの影響は非線形性の正帰還現象である。つまり正のフィードバックループに陥って現象を加速度的に助長してしまう。後戻りできない。世界の化石燃料の消費は、資源エネルギー庁の試算では1971年から2015年の44年間で約2.2倍に増加している。地域別ではアジア太平洋地域の増大が著しいし、燃料別では石炭、石油、天然ガスともに増加している。それに伴って、大気中の二酸化炭素濃度の増加は指数関数的に増加しようとしている。もうすでに後戻りできない臨界点を超えるとも超えたとも言われているのだ。

最近閉幕した(2019年12月)地球温暖化対策の国連会議COP25は、190を超える国や地域が参加し、スペインで開かれた。代替エネルギーへの転換が進まず、石炭による火力発電が増えようとしている日本は白い目でみられていたらしい。そのCOP25では、温室効果ガスの削減目標を引き上げるよう各国に促す記述や、来年から始まる温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」の実施ルールの一部を巡って意見の収集がつかず、40時間にわたる会期延長の末、国の事情に応じて前進させ可能な限り高い野心を持つという掛け声に終わった。削減目標の引き上げは、この会議の成果文書にはついに明記されなかったのである‥‥80年内、人類滅亡。

 

世界平均地上気温の予想 気象庁 IPCC第五次評価報告書より
RCP2.6は、気温上昇を2℃に抑えることを目標として考えられた温室効果ガス排出量の最も少ない予想シナリオ。RCP8.5は排出量最大を見積もったシナリオである。北極地域は世界平均より速く温暖化し、海上より陸上の方が気温が高くなる。